Column

ひとことの余韻 ― こころの奥の設計図

子どもの頃、親から何気なくかけられたひとこと。
それは、特別な出来事でなくても、不思議にこころの奥に残っていることがあります。

「あなたはジャンケン弱いから、賭け事はダメよ」
そんな、ちょっと笑ってしまうような言葉もあれば、
「ちゃんとよく考える子ね」という褒め言葉もある。

些細なように思えるひとことが、何年経っても思い出されるのは、なぜなのでしょう。

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心理学では、親は子どもにとって“世界を知る最初の窓口”だといわれます。
子どもは、親の表情や声の調子、言葉を通して「自分はどういう存在なのか」を感じ取ります。
その積み重ねが、こころの奥に“設計図”のように刻まれていくのです。

その設計図には、温かく背中を押してくれる言葉もあれば、無意識のうちに選択肢を狭めてしまう言葉もあります。

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たとえば、「あなたは慎重な子ね」という言葉が、自信や落ち着きを育てる一方で、「大胆なことをしてはいけない」というブレーキにもなってしまうことがあるのです。

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親の言葉が影響力を持つのは、親が特別な権威を持っているからだけではありません。
子どもにとって、親は「自分を守ってくれる存在」であり、「自分を映す鏡」でもあるからです。
その鏡に映る自分の姿が、こころの深い部分にまでしみ込み、やがて“自分らしさ”の一部として生き続けます。

けれど、大人になってからその影響に気づくことは、意外と少ないかもしれません。
なぜなら、それらの言葉はあまりにも自然に自分の中に溶け込んでいて、もはや「自分の考え」と区別がつかなくなっていることが多いからです。

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ときに、その設計図は今の自分にとって窮屈さをもたらすこともあります。
「失敗しちゃダメ」
「こういう時は我慢するもの」
そんな“当たり前”が、行動や選択を知らず知らずのうちに縛ってしまう。

もし、親との関係に苦しさや引っかかりを感じているなら、それは悪気なく、何気なくかけられた“ひとこと”が、静かにこころに影響しているかもしれません。

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親のひとことは、こころの奥の“設計図”に書き込まれる文字のようなもの。
消すことは難しいけれど、上から書き加えたり、別の色を添えたりすることはできます。
その作業は、過去を変えることではなく、今の自分の輪郭を少しずつ描き直すようなものです。

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それは、自分をやさしく見つめ直す時間でもあります。
たとえば、ある言葉に息苦しさを感じているなら、「それは本当に今の私にも必要だろうか?」と問いかけてみる。
あるいは、褒められた経験をもう一度思い出し、そこに新しい意味を見つけてみる。

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それに気づくことは、あなたの中にある設計図を見直す第一歩です。
その作業は、一人でゆっくり進めることもできますし、誰かと対話しながら行うこともできます。
言葉をほどき、こころの奥に眠っている声を聴く時間は、少しずつでも、自分を自由にしていきます。

あなたの中に残っている“ひとこと”は、どんな言葉でしょうか。

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つくば心理相談室

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