Column

匂いがふいに連れていく場所

わたくし達は、ときどき匂いによって、思いがけない場所へ連れていかれます。

それは懐かしさかもしれませんし、理由のわからない違和感かもしれません。

その体験は、思い出す というよりも、思い出させられてしまう、という感覚に近いものです。

考えるよりも先に、意味づけるよりも前に、

匂いは、私たちの身体とこころに触れてきます。

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1. 「香り」よりも「匂い」という感覚

日常では「香り」という言葉がよく使われます。

香りには、どこか整えられた、洗練された印象があります。

一方で、「匂い」という言葉は、もう少し生々しく、原初的な感覚を呼び起こします。

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好きか嫌いか。

近づきたいか、離れたいか。

匂いは、その判断を、ほとんど一瞬でわたくし達に迫ってきます。

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そこには理屈や好みを超えた、生き延びるための感覚が息づいています。

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2. 安心を探す匂い、侵襲を知らせる匂い

匂いは、安心安全を確かめるための手がかりになることがあります。

たとえば、赤ちゃんが抱っこされたときに感じる、母親の匂い。

まだ言葉も記憶も整理されていない時期に、

「ここにいていい」「守られている」という感覚を、

匂いは身体の奥に刻み込みます。

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一方で匂いは、

「近づきすぎている」

「これは危険かもしれない」

というサインとして立ち上がることもあります。

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ある人にとって心地よい匂いが、別の人にとっては耐えがたいものになる。

そこには、その人なりの体験の歴史が関係しています。

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匂いの好き嫌いは、わがままでも、気のせいでもなく、とても原初的な境界の感覚なのです。

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3. 雑談のような語りの中にある、大切なもの

「この匂い、ちょっと苦手で」

「なぜか落ち着かなくて」

そんな何気ない言葉は、日常では雑談として流されがちです。

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けれどその背後には、まだ言葉になっていない大切な体験が潜んでいることがあります。

本人にとっても、「なぜそう感じるのか」は分からないまま。

ただ、身体が先に反応している。

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匂いは、夢とよく似ています。

夢がこちらの都合とは関係なく「やってくる」ように、匂いもまた、準備のないところにふいに現れます。

そして後から、「自分の中に、こんな感覚があったのだ」と気づかされるのです。

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4. つくば心理相談室が大切にしていること

つくば心理相談室では、いまのところ、アロマを焚いたり、特定の香りで空間を整えたりすることはしていません。

強いて述べるなら、各セッション毎に窓を開けて新鮮な空気に入れ替えていることくらいでしょうか。コロナ禍以降意識して行っています。

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匂いが人によって安心にも、侵襲にもなりうる、

とても繊細で原初的な感覚だと考えているからです。

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この相談室が目指しているのは、「心地よさ」を用意することではありません。

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何気ない語りの中に現れる、まだ意味になっていない感覚を、

急いで解釈せず、評価せず、

そのまま受け取れる場であることです。

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匂いについての一言、

理由の分からない違和感、

安心できた感覚、落ち着かなかった感覚。

そうした体験を、「大したことではない」と片づけずに、自分の大切な感覚として振り返っていけること。

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つくば心理相談室は、その人自身が、自分の体験を大切に扱い直すための場所でありたいと願っています。

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