Column

世界メンタルヘルスデー|元気になることだけが、こころの健康ではありません

10月10日は、世界メンタルヘルスデーです。

つくば市でカウンセリングを行う、つくば心理相談室でも、この機会にあらためて「こころの健康」について考えてみたいと思います。

「こころの健康」と聞くと、どんな状態を思い浮かべるでしょうか。

悩まないこと。
落ち込まないこと。
怒らないこと。
いつも穏やかで、前向きでいられること。

そんな状態を思い浮かべる方もいるかもしれません。

けれども、私たちは生きていれば、いろいろな気持ちになります。

悲しいことがあれば、悲しくなります。
納得できないことがあれば、腹が立つこともあります。
先の見えないことを前にして、不安になることもあります。

誰かとの関係に悩んだり、何度も同じことを考えたり、思うように気持ちを切り替えられなかったりすることもあります。

そういうとき、
「こんなことで落ち込んでいてはいけない」
「いつまでも気にしていても仕方がない」
「もっと前向きに考えなくては」
と、自分に言い聞かせることがあります。

けれども、こころが健康であるということは、いつも元気でいることなのでしょうか。

世界メンタルヘルスデーを機会に、少し立ち止まって、こころの健康について考えてみましょう。

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悲しいことがあれば、悲しくなる

悲しい出来事があれば、人は悲しくなります。

大切な人や大切なものを失えば、こころに穴があいたように感じることもあります。
理不尽なことがあれば、腹が立ちます。
誰かの何気ない言葉に傷ついて、「どうしてあんなことを言われたのだろう」と、後になって何度も思い返すこともあります。

それは必ずしも、こころが弱くなっているとか、不健康になっている、ということではありません。

大切だったから、悲しい。
傷ついたから、腹が立つ。
失いたくないものがあるから、不安になる。
自分にとって意味のあることだから、悩む、、。

こころは、自分に起きたことに反応します。

もちろん、その理由がいつも自分で分かるわけではありません。

「どうして私は、こんなに腹が立つのだろう」
「それほどのことではないはずなのに、なぜこんなに悲しいのだろう」
「何がつらいのか、自分でもよく分からない」

そんなこともあります。

こころというものは、いつも分かりやすく動いてくれるわけではありません。

けれども、すぐに理由が分からなくても、
「いま、私はこんなふうに感じているのだな」
と、少しだけその気持ちのそばにいてみることができたら。

それも、自分のこころを大切にすることの一つなのかもしれません。

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怒らないことが、健康なのでしょうか

「怒る」という気持ちには、よいイメージがないかもしれません。

怒ってはいけない。
穏やかでいたほうがよい。
腹を立てる自分は大人げない。

そんなふうに思うこともあるでしょう。

もちろん、怒りにまかせて誰かを傷つけたり、相手にぶつけたりすることについては、また別に考える必要があります。

けれども、「腹が立つ」という気持ちそのものは、なくしてしまわなければならないものではありません。

自分が大切にしているものを傷つけられたとき。
自分の気持ちをないがしろにされたとき。
「それは違う」と感じたとき。

こころが怒りという形で、何かを知らせていることもあります。

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悲しみも同じです。

悲しいのに、
「早く元気にならなくては」
と、自分を急かしてしまうことがあります。

けれども、こころには、こころの時間があります。

頭ではもう終わったことだと分かっていても、気持ちはまだそこに残っていることがあります。
周りから見れば小さな出来事でも、自分にとっては簡単に終わらせることのできないこともあるのです。

そんなとき、
「まだ悲しいのだな」
「まだ納得できていないのだな」
と、自分の中にあるものに気づくこと。

すぐに何とかしようとせず、少しそこにとどまってみること。

そんな時間が必要なこともあります。

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「つらいときは相談しましょう」と言われても

こころの健康について語られるとき、
「つらいときは、一人で抱え込まずに相談しましょう」
という言葉をよく目にします。

それは、とても大切なことだと思っています。

けれども、実際には、つらいときほど「つらい」と言えないことがあります。

自分でも、何がつらいのかよく分からない。
うまく説明できる気がしない。
こんなことを話してよいのだろうかと思う。
誰かに話すほどのことではないような気がする。

自分より大変な人はたくさんいる、と思ってしまうこともあります。
家族や周りの人に心配をかけたくない、ということもあるでしょう。

本当につらいときには、自分の気持ちを言葉にすることそのものが難しくなることもあります。

ですから、「相談してください」と言われたからといって、すぐに相談できるとは限りません。

それでも、、

「話してもよい場所がある」ということを知っていることには、意味があるのではないかと思っています。

今は話さなくても。
まだ相談するほどではないと思っていても。

こころのどこかに、
「もし必要になったら、あそこに行ってもよいのかもしれない」
という場所があること。

そのことが、後になってあなたを支えることがあります。

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気にかけてもらうこと

大人になっても、自分のことを気にかけてくれる存在がいるというのはうれしいものです。

「最近どうしていますか」
「どうしているかなと思っていました」

そんなふうに声をかけてもらったとき、少しだけこころがほどけることがあります。

何か特別なことをしてもらったわけではなくても、
「自分のことを見てくれている人がいる」
と感じられること。

それだけで、支えられることがあります。

私たちは、誰かに問題を解決してもらうことだけによって支えられているわけではありません。

気にかけてもらうこと。
話を聞いてもらうこと。
自分のことを覚えていてもらうこと。
自分のことを話してもよい相手がいること。

そういうこともまた、人を支えるものなのだと思います。

家族や友人、職場の人、学校の先生、などなど。
日々の生活の中にある人とのつながりも、私たちのこころを支えてくれます。

けれども、身近な人だからこそ、話しにくいこともあります。

心配をかけたくない。
分かってもらえなかったら怖い。
これまでの関係が変わってしまうのではないか。

そんな思いから、口にできないこともあるでしょう。

日常の人間関係に支えられることと、カウンセリングの場を持つことは、どちらか一方を選ぶものではありません。

日常の関係とは少し違うかたちで、自分のために時間を取ってもらい、自分のことを語る場があります。

それが、カウンセリングです。

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自分のために用意された時間

家族や友人との関係では、私たちは自然に相手のことも気遣います。

自分の話ばかりしていてよいのかな。
相手も疲れているのではないかな。
こんなことを言ったら、心配をかけるのではないかな。
あまり暗い話をしないほうがよいかな。

そんなふうに考えることがあります。

それは、人と人との関係の中では、とても自然なことです。

けれども、カウンセリングでは、その時間は、あなたのために用意されています。

カウンセラーのことを楽しませる必要はありません。
気を遣って明るく振る舞う必要もありません。

話したいことがあれば、話してよい。
まだ話したくないことがあれば、話さなくてもよい。

何を話すか。
何を話さないか。
いつ話すか。

それも、あなた自身が決めていくことができます。

「今日は何を話そう」と考えて来られる日もあるでしょう。
何も思い浮かばず、
「今日は特に話すことがないんです」
というところから始まる日もあります。

同じことを何度も話すこともあります。
前回とは違うことを言うこともあります。

カウンセリングは、上手に自分のことを説明する場所ではありません。

自分でもよく分からないことを、よく分からないまま持ってくることもできます。

誰かの前に座って、自分のために用意された時間を過ごす。

何か大切なことを話す日もあれば、あまり話さずに終わる日もある。

それでも、その時間が少しずつ積み重なっていくことがあります。

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話してみて、初めて分かること

一人で考えていると、同じところを何度もぐるぐると回ってしまうことがあります。

頭の中では何度も考えているのに、なかなか何も変わらない。

そんな経験をしたことはありませんか?

ところが、誰かの前でそのことを話してみると、少し違って聞こえることがあります。

「私は、こんなふうに思っていたんだ」

自分が話した言葉を、自分で聞いて、初めて気づくことがあります。

怒っていると思っていたけれど、話しているうちに悲しさが出てくることもあります。
もう終わったことだと思っていたのに、話してみると、まだずいぶん傷ついていたのだと気づくこともあります。

逆に、ずっと大きな問題だと思っていたことが、口にしてみると少し違って見えてくることもあります。

それらは、誰かに正しい答えを教えてもらったからではありません。

誰かの前に座って、自分のことを話す。
そして、その言葉を自分でも聞いてみる。
そこにもう一人、自分の話を聴いている人がいる。

そういう時間の中で、少しずつ自分のこころが見えてくることがあります。

けれども、それはいつも「すっきり分かる」ということではありません。

話してみたからこそ、
「本当はどう思っているのだろう」
「私は何を望んでいるのだろう」
と、前より少し分からなくなることもあります。

すぐに答えの出ない問いもあります。

しばらく自分の中に置いておくことで、少しずつ形を変えていく問いもあります。

分からないということもまた、こころの一つのありようなのだと思います。

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言葉にならないこともあります

カウンセリングでは、言葉が出てこなくなることもあります。

何か話そうと思っているのに、うまく言えない。
自分でも何を感じているのか分からない。
ただ黙ってしまう。

そんな時間もあります。

沈黙すると、
「何か話さなくては」
と焦ることもあるかもしれません。

けれども、すべての時間を言葉で埋めなくてもよいのだと思います。

まだ言葉になっていないものが、こころの中にあるのかもしれません。

言葉になる前に、少し時間が必要なこともあります。

分からないものを、すぐに分かるものにしなくてもよい。
すぐに答えを出さなくてもよい。
しばらく分からないまま持っている。

そんな時間も、人のこころにはあるのだと思います。

言葉になったことだけが、あなたのこころではありません。

話せなかったこと。
うまく表せなかったこと。
まだ自分でもつかめないこと。

そういうものも含めて、あなたのこころに起きていることです。

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元気になることだけを目指さなくてもよい

カウンセリングを受けたら、すぐに元気になる。
悩まなくなる。
いつも穏やかでいられる。

そのようなものではありません。

もちろん、苦しさが少し軽くなったり、不安が和らいだりすることはあります。
長い間困っていたことへの対処の仕方が見つかることもあります。

けれども、カウンセリングの中で、それまで気づかなかった自分の気持ちに出会うこともあります。

ずっと我慢してきた怒りに気づいたり。
忘れたつもりでいた悲しみに出会ったり。
本当は寂しかったのだと気づいたり。

これまで「こんなことを思ってはいけない」と遠ざけていた気持ちが見えてくることもあります。

それは、ときに少し戸惑うことでもあります。

けれども、自分の中にあるものを急いで追い出そうとせず、
「こんな自分もいるのだな」
と少しずつ知っていくこと。

それもまた、自分自身と生きていくということなのかもしれません。

悲しみが消えたから、前に進めるとは限りません。
怒らなくなったから、こころが整ったとも限りません。

悲しみを抱えながら歩いていくこともあります。
怒りを通して、自分が大切にしていたものに気づくこともあります。
迷いながら、それでも少しずつ、自分の道を探していくこともあります。

こころの健康というものを、「何も感じなくなること」や「いつも安定していること」と考えなくてもよいのではないでしょうか。

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こころは、思い通りには動きません

私たちのこころは、なかなか思い通りには動いてくれません。

悲しくなりたくないのに、悲しくなる。
腹を立てたくないのに、腹が立つ。
もう考えたくないと思っているのに、何度も考えてしまう。

忘れたいことを思い出すこともあります。

人を好きになったり、嫌いになったり。
期待したり、がっかりしたり。
うれしくなったり、寂しくなったり。

こころは、こちらの都合通りには動いてくれません。

だからといって、それらの気持ちがなくなれば、私たちは健康になるのでしょうか。

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きっと、そうではないのでしょう。

こころの健康とは、自分の感情を完全にコントロールできることではなく、自分のこころに起きていることと、少しずつ一緒に生きていけることなのかもしれません。

悲しんでいる自分もいる。
怒っている自分もいる。
迷っている自分もいる。
元気な自分もいる。

そんな自分の中にあるいろいろなものを、すぐに良い・悪いと分けず、
「いま、自分のこころにはこんなことが起きているのだな」
と眺めてみる。

そして、一人で持っていることが難しくなったときには、誰かの力を借りる。

そんなことも、「こころの健康」の中に含まれているのではないかと思います。

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世界メンタルヘルスデーに寄せて

世界メンタルヘルスデーだからといって、

「もっと自分のこころを大切にしなくては」
「ちゃんとセルフケアをしなくては」

と、新しい課題を増やす必要はないと思います。

少しだけ、自分のこころに目を向けてみる。

「最近、少し疲れているかな」
「そういえば、あのことがまだ気になっているな」
「私は、思っていたより腹を立てていたのかもしれない」
「ずっと平気だと思っていたけれど、本当は少し寂しかったのかな」、、

そんなふうに、自分の中にあるものに気づくことから始まってもよいのです。

そして、もし一人で考えていることが少し苦しくなったとき。

誰かの前で、自分のことを話してみたくなったとき。

まだ何を話したいのかよく分からないけれど、少し自分のこころに向き合ってみたいと思ったとき。

カウンセリングという場があります。

つくば心理相談室では、あなたのための時間を用意しています。

うまく話せなくても。
まだ自分でもよく分からなくても。

あなたのこころには、あなたの時間があります。

すぐに元気になることだけを目指さずに。

そのとき、あなたのこころに起きていることを、一緒に見ていくことができたらと思っています。

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2025年の世界メンタルヘルスデーに書いたコラム→『世界メンタルヘルスデーに寄せて ─ わたしをいたわるセルフケア3ステップ ─』もご覧ください。

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